
秋津の家
種別/新築
所在地/和歌山県田辺市
構造/木造平屋建+LOFT
延床面積/121.94㎡
竣工年/2022年
Photo/Koki Matsumoto
時を受け継ぐ
“大工だった祖父が建てた家を改修したい”と孫世代にあたるご夫婦の要望から始まった本計画。
ただ、旧家をじっくり調査した結果、経年による傷みに加えて北側擁壁に迫る建ち方など、改修では解消し難い様々な不具合が判明し、総合的判断から建替えを選択するに至りました。
ですが単に解体し新たに建物を建てるのではなく、
「古くても良いものや、想い入れのあるものを取り入れて家づくりをする」
という考えを施主様と共有し、新築でありながら旧家の面影を暗に感じられるよう計画を進めました。
具体的には、旧家から腐食を逃れた梁や建具、家具類をできるだけ再活用し、新たに用いた地元紀州材と組み合わせることで新旧の調和を図るよう意図しました。
そのため、南北方向を建具や家具を再利用するため旧家に即したモジュールとし、東西方向を梁や軒桁の加工ロスを考慮したモジュールを使用。
そうすることで、同時に変型敷地を余すことなく活かした配置計画としました。
そして、平面プランは、LDKを中心とした回遊性のある動線計画とし、それらに沿うように光の入り方や風の流れを細やかに感じられる“パッシブハウス”を目指しました。
外観は軒を低く抑えながら地域にある伝統的な民家の仕上げ構成とする事で、街並みに溶け込みながら、昔から続く豊かな景色を望みます。
結果、新しさの中に“時が重なる”ことで、記憶を次世代へ受け継いだ唯一無二の住まいとなりました。

川向いに建つ豊かな住環境。

軒を低く抑えた控えめな外観。
8m程ある縁桁は旧家からの転用。

川岸の桜並木を望みながら一段高い敷地内へ入ります。

玄関前にはゆったりとしたポーチを計画。
雨の日には鎖樋と水瓶から心地よい雨音が響きます。

桧造りの玄関引戸には鍵付きの網戸を組み込んでいます。

ポーチから続くタイルに沿って玄関内へ。

玄関土間に対し框を斜めにとることで、靴脱ぎスペースを広く確保しています。

土間収納。備長炭が含まれた消臭効果のある櫛引左官仕上げが玄関廻りを柔らかく包みます。

玄関ホールからLDKへ。
旧家から転用した2本の大梁が出迎えます。

対面式に設けたキッチンは、永く美観が保てるようステンレス調仕上げですっきりと。
コーナー上部に設けたスピーカーは奥様のお父様自作のもの。

リビングから川岸を望む、昔から変わらない景色。
古梁は構造計算を元に安全性を確認したうえで活用しています。

勾配天井の上部にはロフトからの小窓を設けています。

ご祖母様から譲り受けた箪笥の上段を、丁寧に加工し再利用したテレビ台。

勾配天井に設けたハイサイドライトが光と風の通り道。
リビングへの引き戸は、ツインカーボに杉の細木を組み込んだ千本格子建具。

開口部の先は桧仕上げの濡れ縁へ。

軒を深くとることで、夏の厳しい日射を遮りながら冬は暖かな光が室内へ届くよう計画しています。